「主の良くしてくださったことを何一つ忘れるな」(詩篇103篇2節)
2010年も、神さまの守りの中で1年を過ごすことができました。聖光学院にと
っても、本校に関わる一人ひとりにとっても、大切な1年になったと思います。
今年受けた恵みを思い出すため、ホームページの「News」とブログ「先生の
ひとりごと」をざっと見返してみました(あまりにも膨大で、すべてを読み直す
ことは不可能でしたが)。写真と文章から、様々な出来事を振り返ることができ
ました。
今年1年を聖光学院の一員として生活する中で、私が個人的に特に印象に残っ
た3つのことについて、お話ししたいと思います。
第1は、6月に行われた弁論大会で、3Tの木村拳吾君が行った「心の扉」と
いうスピーチです。私は予選と本選の2度、彼の話を聞きましたが、内容、構成
、語り方すべてにわたって完璧で、メッセージ性のあふれるものでした。
小学生のとき、自分に好意を持ってくれた女の子をわずらわしく思い、傷つけ
るようなことを言ってしまった。いつか謝りたいと思っていたが、その子が突然
の交通事故で亡くなってしまい、謝ることもできなくなった。私はこの出来事を
、これまでだれにも話したことはない。しかし、弁論大会の場で話すようにと、
天国からその子が後押しをしてくれたように思う。なぜなら、伝えるべきことを
伝えないままでいて後悔する人が私以外にもいるだろうから。勇気をもって心の
扉を開き、伝えるべきことを伝えましょう。
この弁論で、木村君は理事長賞を受賞しました。そして彼の言葉はいつまでも
私の心にとどまり、私は、語るべき時に語るべき人に語るべきことを語れますよ
うにと、祈っていました。
このあとの話は礼拝説教の中でも話しましたが、夏の甲子園応援に行く直前、
歯が痛くなり、福島で初めて歯科医に行きました。そして、そこで受付をしてい
た女性に、カウンター越しに聖書の話をするようになり、やがて彼女はクリスチ
ャンとなりました。生徒のメッセージを通して、私自身が強められ、勇気をもっ
て口を開くことができたのです。
第2に、4月に新しく聖光学院寮が完成し、これまで矢剣寮と旭寮にいた寮生
が移動しました。福島に単身赴任で生活する私は、矢剣マンションに部屋を借り
、これまで多くの寮生と同じ建物で生活をしていました。寮生が移動したため、
矢剣での食事がなくなり、私は自炊を始めました。実は大学時代、独身時代を通
じて、私は一度も自炊の経験がありませんでした。そのため、野菜を切ったもの
や、レトルトの雑穀おかゆを電子レンジで温める夕食に切り替え、10kg以上体重
を落とすことができました。(それでもまだ十分すぎるほどの体重ですので、ど
うぞ心配なさらないように!)
スマートになっていく私を見て、多くの方が「どうやってやせたんですか」と
か、「お体は大丈夫ですか」などと言ってくださいました。しかし、あるひとり
の生徒が私にこう言ってくれたのです。「先生、寮が移転して、矢剣に食事がな
くなってから、食事はどうされてるんですか。大丈夫ですか」と。彼は目で見え
る結果に応答してそう言ったのでなく、ひとり住まいで矢剣に残っている私の状
況を思いやって、心配してくれたのです。なんて心が細やかで、優しい気持ちを
持った生徒だろうと、私はうれしく、また慰められる思いがしました。
第3に、11月のことですが、福島のある教会の礼拝に、本校の2年前の卒業生が
やって来ました。
彼は、高校時代は、宗教の先生に悪態をつくような反抗的な生徒でしたが、後
に別の教会に出席して讃美歌を聴いたとき、温かいものが心に触れて、涙が止ま
らなくなりました。やがて、その教会で信仰を持ち、洗礼を受けられました。い
まは聖書を読むたびに、高校時代の学びを思い出し、感謝の気持ちに満たされる
ということでした。
ひとつの魂が神に触れられるまで、いったいどれほどの祈りがなされ、どれほ
どの人たちの働きかけがあるのでしょう。いま私たちは、いつか消え去ってしま
うもののためでなく、永遠に残る価値あるもののために、この学校でともに時を
過ごしていることを心より感謝したいと思います。
新しい1年にも、さらに豊かな神さまの祝福がお一人おひとりにありますよう
に。