現代のマリアとヨセフ
わたしは聖光学院に来る前、教会で牧師をしていました。クリスマスのたびに、「本当のクリスマス」という言葉を聞きました。だいたいが聞かなくても良いような話しばかりでした。
教会学校の先生が子供たちに言いました。「本当のクリスマスはね、サンタさんからプレゼントしてもらうんじゃなくて、イエス様のお誕生日をお祝いするんだよ。」
ドイツやアメリカでクリスマスを過した人が言いました。「やっぱり、あちらは違うね。町全体がきれいに飾っている。教会の奉仕も熱心だ。」そしてクリスマス・ツリーやアドベント・リース(クランツ)の美しさを熱弁する人がいました。
クリスマス・ツリーは、初代キリスト教会にはありませんでした。リースも同じです。中世や近代のヨーロッパの産物です。電球のついたきらきら光るツリーはキリスト教の2000年の歴史からみれば、つい最近のことです。
牧師でありながら、クリスマスが嫌いでした。プレゼントをもらっては喜び、施設のクリスマス会に招かれては喜んでいながら、心の隅っこに喜べない、なんともいえない気持ちが残っていました。
去年(2008年)のクリスマスはそんなわたしへの神様からのプレゼントがありました。結婚式の依頼があったのです。3月に披露宴を予定しているけれども、それに先立って二人だけで教会で挙式を挙げたいということでした。正直を言って、あまり気が進みませんでした。
クリスマスの数日前、教会では集会は行われず、夜、2人だけの結婚式をあげました。二人は、わざわざ宮城県から車で一時間ぐらいかけて教会にきました。新婦さんは大きなおなかを抱えていました。おなかには赤ちゃんがいたのです。
式が始まり、いつもの礼拝のように讃美歌を歌い、聖書を読み、説教をしました。説教しているあいだ、新婦は涙をながしていました。内容は、聖霊によって身ごもったマリアのことで、ヨセフは「正しい人であったので、ひそかに離縁をしようとした」ことを語りました。身ごもっている新婦と彼女とこれから一生を伴にしようとする新郎に語るクリスマス・メッセージでした。
二人は、この結婚式を喜んでくれました。会堂の後片付けをしながら、わたしのもとにマリアとヨセフが来てくれたんだと思いました。涙を流しながら御言葉を聞き、愛を誓い合う二人の姿には、どのようなクリスマス飾りにも負けない凛とした美しさがありました。