アジアAAA野球観戦記
8月28日(日)、保土ヶ谷・神奈川新聞スタジアムに行ってきました。第9回アジアAAA野球選手権大会の予選リーグ、日本対香港戦。もちろん、この大会に出場している本校の2名を応援するためです。そう、その2名とは、スプリットで今夏の甲子園を湧かせた歳内宏明投手と、日本チームの斎藤智也コーチです。
歳内君はクローザーの役割を期待されていると聞いていたので、試合後半で登板機会があってくれたらと、心の中で願っていました。
保土ヶ谷球場は、ソフトボールのジャパンカップの観戦に、何度か訪れたことのある球場です。球場に到着すると、予想外の人の出で、駐車場に入る車の列が球場入口まで連なっています。初戦であることや、「もっと見てみたい」と思わせる注目選手が数多く選出されているからでしょう。かく言う私も、甲子園でもう少し歳内君を見たかった、という思いから、東京での礼拝説教を終えて、すぐさまかけつけたのでした。
スタンドに入ると、両軍選手がベンチ前で試合前のセレモニーを待っているところでした。選手も甲子園とはちがって、ずいぶんくつろいだ雰囲気です。
1塁側ベンチの日本チームから順に名前が呼ばれ、呼ばれた人は1塁線上に並び、スタンドにあいさつしていきます。横浜高校渡辺監督に続き、2番目に名前を呼ばれたのが、コーチを務める聖光学院高校の斎藤智也監督です。渡辺監督の隣に立ち、帽子をとって一礼、スタンドからの拍手を受けます。
このあと、日本選手のスターティングメンバーが打順どおりに呼ばれていきました。それで9番まできたとき、「以上で……」と場内アナウンスが言いかけて、とまってしまいました。指名打者制であるのに、投手の紹介を忘れてしまったのです。気を取り直して、投手がアナウンスされました。「ピッチャー歳内宏明」。えっ、先発なの? 思いがけない幸運に驚くとともに、がぜん観戦にも気合いが入ってきます。
両軍ベンチ入りメンバーが1塁線上、3塁線上に並んだあと、国際大会らしく、香港、日本の順に国歌が演奏され、チーム間で記念品の交換をしたあと、ようやくホームベースをはさんで向かい合ってあいさつ、試合が始まりました。
1回表、日本の攻撃。香港投手はゆるい変化球を中心にときおり意表をついてストレートを投げて来ます。しかし、制球が定まらず、いきなりの連続四球。盗塁、暴投、捕逸、失策で1点、さらに犠飛と、日本はノーヒットで2点を先制。試合自体は楽勝なんだなと、球場には安心ムードがただよいます。それだけに、観客の視線は、日本選手ひとりひとりがどんなプレーをするのかという興味に移っていったように思います。
1回裏、いよいよ歳内君がマウンドにあがります。先ほどのゆるいボールを見ただけに、投球練習でバシバシ投げ込んでくる速球に、観客からも「オーッ」という声がもれます。香港選手の体格がみな小柄だからかもしれませんが、歳内君からは威圧感ともいえる力強さがただよっています。先頭打者からストレートでがんがん押す配球です。1番打者、どんづまりの打球が3塁側にころころと転がりますが、3塁手が見事なダッシュで1塁に投げ、ワンアウト。2番打者を三振にとると、3番打者には1ボール2ストライクからの4球目、アウトコースにずばっと投げ込むストレート。三振かと思いきや、ボールの判定で、歳内君も思わず苦笑いでしたが、次はインハイのストレートで空振り三振。全球ストレートの強気の投球でした。初回打者3人を2三振と、上々のスタートをきりました。
2回表、日本は3点をあげ、試合はワンサイドとなってきました。
2回ウラ香港、4番打者は、1,2塁間のぼてぼてのゴロ。1塁手はスルーしてセカンドにまかせます。歳内君がしっかりベースカバーに入り、難なくアウト。5番打者を三振にとったあと、6番打者はスプリットで三振、捕手が右に大きくそらしますが、1塁に投げアウト。2回で4三振、甲子園での奪三振ショーがよみがえるような投球です。
3回表も日本は1点をあげます。
3回ウラの香港、7番打者。歳内はスプリットで三振を狙うもワンバウンドとなり、見逃されます。次球、打者がバットにうまくあて、ライトフライ。外野までボールが飛んだというので、球場からはどよめきが起こりますが、あてただけの打球でした。8番打者はボテボテの投ゴロ。そして、9番打者は、またしても全球ストレートで三振を奪います。3回5三振です。
ここで8対0。通常ならコールドが見えてくる状況ですが、第1試合で韓国が20対0でスリランカに勝ったと表示されていたので、コールドがあるのかどうか、この時点ではわかりませんでした。
それで、あと何イニングあるのだろう、歳内はまだ投げるのだろうか、もうちょっと見たいな、という思いでした。
すると、試合経過を送っていた相手からメールが入り、「智也さんはコーチャーズボックスに立っているか」と聞かれました。
実はうかつなことに、まったくそのことは考えてもいませんでした。というのは、コーチャーはヘルメットをかぶっていたので、てっきり選手が出ているものだと早合点していたのです。1塁ベースコーチャーの背番号を見ると、今日、登板のない投手でした。そして、3塁ベースコーチャーは……背番号21! そうです。ヘルメットをかぶった斎藤智也コーチがそこにいたのです。
4回表、日本の攻撃は、2本の2塁打が出て、2点をあげました。斎藤コーチはぐるぐる腕を回しています。腕だけでなく、目の前をかけて行く選手に「行け、行け」と大声をかけたり、左手で背中を後押しするように振ったりして、なかなかのアクションです。
特に5回表の日本は、2四球をはさみ、なんと11本の単打が出て11点をあげましたから、サードコーチャーの智也監督は、次々やって来る走者を、回したり止めたりと、大忙し。日本代表の選手たちをたばねて指導するだけでなく、グランド上でも大活躍の智也監督でした。
歳内君は3回で交代、その後日本は、松本(英明)、北方(唐津商)、吉永(日大三)が1イニングずつ登板、ノーヒットに香港を抑え、23対0で6回コールド勝ちしました。
高校球界を代表する選手たちに囲まれながら、歳内投手は堂々たるピッチングで3回を5三振、パーフェクトに抑えました。変化球は。各打者に対しても1球程度、ストレート主体の力で押すピッチングでした。捕手は3球ほどスプリットをはじきましたが、そもそも走者を出していないので、問題ありません。
相手が香港とはいえ、初戦の初回、緊張感のある中での登板でも、動じることなく貫禄のピッチングを見せてくれました。
このあと大会は9月2日まで続きますが、厳しい場面での登板でも、きっと実力を発揮し、日本チームの優勝に貢献してくれると思います。(辻 潤)