学研・進学情報2月号「視点」で、東京大学名誉教授・金子元久先生へのインタビューの中で、私は「高校教育の原点」を思い起こすことができた。その内容を、以下で紹介する。
金子先生が指揮する東京大学の大学経営・政策研究センターでは、2005年度から09年度にかけて、全国4000人の高校3年生と保護者を対象にした「高校生の進路についての調査」同時期に「大学生や大卒職業人を対象にした調査」を実施、現在の高校生や大学生の実態、高校や大学の教育の効果も浮き彫りにしている。この調査で所得と大学進学率の相関関係が初めて明確になったが、それ以外でも、高校教育が大きな問題を抱えている事がわかった。それは、高校3年生のうち約半分が家で1日1時間以下の勉強しかしていない。その4割は勉強をほとんどしていない。大学に進学する高校生ですら、その3割以上が家でほとんど勉強していない。15歳から18歳という伸び盛りの時期に、学校の勉強が少ない子供たちに影響を与えていない状況(しなくても何とかなる)は、今の高校教育における一番大きな問題である。高校生できちんと勉強する生徒と、そうでない生徒を比べて、学力以外で特別な違いが生じるかを調べたところ、高校時代の勉強が役立ったと思っている大学生は、就職率が高いことが分かった。興味深いのは、高校生の時点で将来の職業を見つけて大学に進学した生徒とそうでない生徒の比較。就職率をみるとあまり変わらず、必要性が強調されているキャリア教育だが、大学進学希望の高校生に将来の職業を決めさせるだけなら、あまり効果はないようである。今は、産業構造が大きく変化しており、高校生が大学卒業後の職業を決めるのはとても難しいのである。もう1つ就職に関するデータを出すと、大学1年生の時にちゃんと家でも勉強していた学生は、就職率が高いこと。大学1年生で自ら勉強できる学生というのは、多くは高校で自ら勉強してきた生徒である。高校で勉強することに手ごたえを感じた生徒は、大学に入ってからも勉強を自らするし、いろいろなことに関心を広げ、さらに学ぶというサイクルが生まれるのだろう。そのような態度が、就職するときに役立っているようだ。高校の教育は、生徒の卒業後の人生に色濃く影響を残すのである。高校のときに感じた勉強の手応えが、大学進学後の就職活動に結び付いていく。やはり高校教育で重要になるのは、生徒に対して自ら勉強に取り組ませるという基本的なことかもしれない。この大規模調査のデータをさまざまに分析していくと、今の社会が今後どうなるか分からない時代だからこそ、学校は基本に戻る教育がますます重要になっていると強く感じる。高校も大学も、生徒に勉強する態度をきちんと身につけさせる。この基本こそが自らの将来を作ってくれる。今、そのことをちゃんと教えることが、重要になっているといえるだろう。
このインタビューでは、他にも興味深いデータ分析が載っているので、次回の私のブログで紹介したい。
by MTYk