「入学式式辞」
本日は、多くの新入生を送って下さった近隣中学校の校長先生方をはじめ、数多くの来賓各位のご出席の下、聖光学院高等学校第58回入学式を行えますことを、心から感謝申し上げます。例年より早く桜が満開になり、後を追うように桃の美しいピンクの花が咲き、そこに鮮やかな黄色の菜の花も加わり、ここ「信達野」は一年で最も美しい季節となりました。
新入生の皆さん・保護者の皆様、入学まことにおめでとうございます!ようこそ聖光学院へ!教職員はじめ関係者一同、心から歓迎致します。数ある高校の中から、よくぞ聖光学院を選んで入学してくれました。急速に少子化が進む中、216名もの新入生を迎えることが出来、真に感謝であります。新入生の約三分の一が地元の伊達地区の中学校からの生徒さんです。地元中学校のご理解とお支えがあることを本当に有難く感謝しております。一番遠くからの入学者は北海道の北見市からで、聖光で野球をやりたいとの強い決意で入学してくれました。北見と言えば女子カーリングの活躍と彼女たちの用いた言葉「そだねー!」の掛け声で有名になった都市で、少し北へ行けばオホーツク海です。そんな遠くからよくぞ入学してくれました。「スポーツ聖光」らしく、今年も運動部で活躍が期待される新入生を数多く迎え、二つの寮は満員となりました。
さて、入学式にあたり3つのことを申し上げ、校長式辞にしたいと思います。
第一は、高校3年間明確な目標を持ち、その実現に向けて日々努力して欲しいということです。しっかり勉強に取り組んで大学に進学すること、たくさん資格を取って優良企業に就職すること、部活で全国優勝をすることなど、目標を掲げ、日々努力してください。
シドニー・オリンピックのマラソンで金メダルを獲得した高橋尚子さん(Qちゃん)は、大学時代までは全く無名でした。中学校の合宿中に、日本代表としてオリンピックに出場した経歴を持つ人が話に来られ、「僕が日の丸を付けることができたのは、練習が終わった後に100メートルを3本だけプラスして練習したからだ」と言ったそうです。そんなことだけで日本代表になれるのかと思いましたが、聞いてしまった以上はやるしかないと、毎日、練習が終わった後で3本多く走り始めたそうです。やがて長距離に転向してからは、10分のジョギングをプラスしました。継続は力なりです!「それを毎日続けていくことによって、結果的に、全然違う景色が見えるころに行き着いたのです」と書いています。練習は嘘をつきませんし
勉強も嘘をつきません。諸君もQちゃんのように、はっきりした目標を持ち、その目標を実現するため日々努力を続けてください。
第二は、本校の「建学の精神」であるキリスト教の愛についてであります。聖光学院が創立以来一貫して大切にしてきたものは「愛」です。本校の校門には、日本語で「愛」、ギリシャ語で「アガペー」の字が刻まれています。教師も生徒も愛をもった人間であって欲しい、という願いがそこに込められています。勉強を頑張って難関大学に合格することも素晴らしいです。部活で全国優勝することも素晴らしいです。でもそれ以上に、何よりも愛を豊かに持つ人間になって欲しいというのが我々の心からの願いです。
7年ほど前の朝、一人の本校生、彼はサッカー部員でしたが、自転車で福島方面から4号線を学校に向かって走っていました。すると歩道上で苦しがっているおばあさんを見つけました。彼は瞬間どうするか悩みましたが、そのおばあさんを背負って近くの交番に届け、名も名乗らずに登校しました。この生徒の愛の行動に感激したこのおばあさんは、学校にお礼の電話をくださいました。この皆さんの一先輩のしたこと、これこそ〈愛〉です。何の得にもならず、むしろ遅刻するなど損をするばかりなのに、「・・にもかかわらず行動を起こした」愛です。また、「聖光学院生は挨拶が素晴らしい」、「お礼の言葉がきちんと言えて素晴らしい」と良く褒められますが、これらも「愛」から出てくるものです。
この3月に本校から少し北にある「醸芳中学校」の校長先生を定年退職された大木修先生が、以前、中学校の機関誌『碧天』にこのような文章を載せてくださいました。
「平成16年の正月のことです。併願受験する聖光学院高校のテニスコートを見たいという息子と共に、車で聖光学院に行きました。雪が激しく降っていました。私と息子は車を降りテニスコートに向いました。すると突然「練習やめ!こんにちは!」という大きな声が響き渡りました。野球場からでした。こんな雪の日も練習しているんだと驚きました。それ以上に挨拶に驚きました。なぜなら、野球部員の姿は降りしきる雪のためボンヤリとしか見えなかったからです。彼らはエンジンの音が止み、ドアが閉まる音を聞いて、その方向に向かってしっかりと挨拶したのです。凡事徹底、挨拶という当たり前のことを人には真似ができない程一生懸命にやる。平凡を非凡に努める姿がありました。その姿勢が、全国的にもその名を馳せる今に繋がっているのだと思いました。君たちも先輩に負けない元気な挨拶をする生徒になってください。
第三は、我々教職員についてです。希望をもって聖光学院に入学された皆さんを指導する本校の教職員は、自分を磨きつつ、全力で皆さんを指導し、サポートしていくことを約束します。宮沢賢治の作と言われる「私が先生になったとき」という詩があります。その一部を紹介します。
私が先生になったとき
自分が真実から目をそむけて
子どもたちに 本当のことが語れるのか
私が先生になったとき
自分が未来から目をそむけて
子どもたちに 明日のことが語れるのか
私が先生になったとき
自分が理想をもたないで
子どもたちに いったいどんな夢が語れるのか
私が先生になったとき
自分に誇りを持たないで
子どもたちに 胸を張れと言えるのか
この詩は、「教師たる者は、自分の生活のためにただ漫然と勤めるサラリーマン教師であってはならず、自分が教える教科においても、人格においても、自分の教育に対して責任を感じ、教育への情熱を持ち、自ら生活の基本ルール・習慣を身に着ける闘いを辞さない教師でなければ、教育はできない」と言い切っています。本校の教師たちは、ここに書かれている教師像を目指して、ひたむきに努力しつつ、君たちの教育・指導に力いっぱい当たることを誓います。
生徒諸君・保護者の皆様、我々はこのような気持ちで新入生を迎え入れました。どうか安心して我々にお任せください。必ず期待に応え、新入生諸君と一緒になって夢の実現に努力します。
最後に、皆さんの今日からの聖光学院での生活の上に、神様の豊かな導きと祝福がありますように心から祈り願いつつ、校長式辞と致します。
2019年(平成31年)4月9日 聖光学院校長 新井 秀