1か月ほど前、国際基督教大学に進学した卒業生が、近況報告を兼ねて遊びに来てくれた。徹底的に鍛えられた英語力さらにフランス語の上達に努力し、フランス短期留学を経験し、語学を学ぶことの楽しさを熱く語ってくれた。担任としては、これ以上嬉しいことはない。
話は変わるが、不況の影響で受験生が、就職に直結しやすい医療系や、就職に有利な理系や一部の社会科学系の学部に集中している。人文科学の学問を大学で学んでも、就職に有利にならないと考えている受験生がかなり増えているのである。しかし、それで本当にいいのだろうか。人文科学は、人の心から生まれる営みを対象にし、できる限り人間を深く知ろうとする学問である。人文科学系の大学では、多くの言語や文化を深く研究することで、世界に関する知見を高め、グローバル化時代に対応できる人材を養成しているのである。日本は他の先進国に比べると、まだまだ世界の地域研究が弱いと指摘されている。政治では、尖閣諸島問題など外交力の弱さが大きな問題となっている。また経済では、科学技術が高いにも関わらず、韓国などの新興国に様々な産業分野で、シェアを奪われ世界における存在感が薄れている。人文科学において、世界各地の外国語や文化の研究をするのは、言語を通して世界各地の人間を深く知り、自分や自国の位置を正しく把握しながら的確に他者や他国と対等に付き合っていくためでもある。政治でも経済でも、これからの時代で大事なのは、世界中の国とパイプを持つことである。このパイプを現地の最前線で作れるのは、その地域の言語や文化に精通した人だけである。真に信頼される国際人とは、グローバルな言語に習熟しつつ、地域言語の高い能力と文化への理解力をもった人たちである。
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