実習を終えて
野崎 光平
私が5日間の実習を体験して感じたことは「自分の無力さ」です。
実習に行く前は、「何とかなるだろう」などと安易に考えていました。しかし、実際に実習をしてみると、いかに自分の考えが甘いものだったかと痛感させられました。なかでも、一番困ったことは利用者さんとコミュニケーションを図るということでした。
実習1日目、2日目は桑折町にある「やすらぎ園」で同行訪問に参加させて頂きました。同行訪問は、ヘルパーさんが利用者さんの生活スタイルに合わせながら、環境を作っていくことが大切だと教えていただきましたが、利用者さんと2人きりになった時、何を話していいのかわからず、ただただ黙ってしまいました。沈黙になればなるほど、「何か話さなければ・・」という気持ちが強く働き、結局は何もできないまま終わってしまいました。訪問終了後に「どうでしたか?」と聞かれた私は「自分は井の中の蛙でした」と答えることしかできませんでした。自分が学んだ知識などは、ほんのちっぽけなことで、小さな世界の中でいかに満足していたんだろうと。一歩外に出れば何もできずにただそこにいるしかできない。これが本来の自分の姿なのだ。
実習3日目、4日目は、桑折「聖・オリーブの郷」で介護実習をさせていただきました。同行訪問とは違い、「多くの利用者さんと接する時は、目配りが大切であり、利用者さんから顔を覚えてもらえるように積極的に取り組むようにして下さい。」と言われたにも関わらず、結局は自分から話しすることができず失望するばかりでした。そんな私の姿を見て、職員さんから「これも勉強だよ」と励ましの声をかけていただき、この言葉を聞いた私は、すぐに遠藤教頭先生がおっしゃってた「お前達はひよっこだ」という言葉を思い出しました。いくらヘルパー2級の講義を受けても、経験も知識も無い。ならば、今自分ができることを謙虚に学び、どんなことでもやらせていただこう。今できなくても、諦めずにやり続けていこうと思い、下手ながら自分から利用者さんのそばに行き、自分のこと、家族のこと、学校のことなど話をしてみました。
次の日の朝、初めて利用者さんの方から「おはよう」と挨拶を受けました。当たり前の挨拶かもしれませんが、その一言に私は、今まで味わうことのできないくらいの感動に心を打たれ、「おはようございます」と返す言葉の意味が重く、ずっと心の中で「有り難う御座いました」と何度も何度もつぶやいておりました。私は、この体験を機に利用者さんとの距離が縮まり、打ち解ける事ができました。担当の方から「壁を乗り越えたね」と言われたとき、私は「はい」と笑顔で答えることができました。
あの時、本当に諦めなくてよかった。いつも困難から逃げていた私だったらあの感動を味わえることはできなかっただろう。施設の中には、認知症の方や障害を持って話がままならない人もいる。しかし、コミュニケーションは言葉だけではない。「心を込めて」話をすれば、必ず相手には思いが伝わるのだ。
実習最終日、利用者さん1人1人が私と握手をしてくれました。その手はとても大きく、温かく、その手のひらからは内なる優しさが伝わってきました。とても嬉しい気持ちになり、その瞬間、私は自分の人生を決めました。必ず、介護福祉士になって施設に戻るということを。
施設を出た時、今までと世界が変わったような感覚となり、涙しながら笑顔であとをすることができました。